「白菜の毒性」について

あの食品には発癌性物質の何々が使われている、あのメーカーが出している何々には毒性がある、動物実験では何々による健康被害が見られた……といった情報が飛び交っている昨今ですが、果たして“その見方”は適切と言えるのでしょうか? そのことを考えるに前に、とある事例について話したいと思います。

ニューヨークに住む88歳の中国出身の女性が、数ヶ月にわたって毎日約900g~1.36kgの白菜を生で食べていたところ、昏睡状態に陥ったというニュースがありました。このニュースを聴いて、「白菜は生だと危険だ」と思いますか? それとも「毎日1kg以上食べるなんて……」と思うでしょうか? どう思うのかが、運命の分かれ道かもしれません。

まず、彼女が昏睡状態に陥った原因は、白菜が属するアブラナ科の植物の多くに含まれている酵素「ミロシナーゼ」です。ミロシナーゼを過剰摂取すると、甲状腺ホルモンを分泌するために、必要なヨウ素の取り込みが出来なくなってしまうので、ホルモン濃度が低下して疲労や呼吸不全などに繋がります。その結果が昏睡状態です。

これで「ミロシナーゼは危険だ」「含まれている植物は避けよう」となるのは、あまりに理解不足というものでしょう。そもそも、多くの植物は毒素を持っています。それは動物に食べられない為の自衛策です。植物たちも食べられるために育っているわけではないですからね。

そんな植物を食用として食べらてこられたのは、植物が持つ毒素が微量だったからです。毒性が弱ければ、摂取したところで悪影響を及ぼすことはありません。つまりは、摂取量の問題なのです。昏睡状態に陥った彼女の場合、明らかに食べ過ぎが原因だという話です。

醤油だって致死量は168~1500ml、塩は30~300g、カフェインは3~10gと言われています。カフェインをコーヒーに換算したら75杯、紅茶なら125杯、コーラなら200本といったところでしょうか。それぞれに一日の許容摂取量というのがあるのです。

白菜の毒を騒ぐ前に

白菜に毒があると騒ぐ前に、何でも食べ過ぎはよくないということを知るべきです。世の中には、科学的な根拠もなしに危険性を煽って騒ぎ立てる人や、動物実験の結果を誤った見方をして人々の不安を助長させ、「知らないと危ないですよ」をウリに商売をする人がいます。

誤った見方というのは、毒性の確認の為に過剰投与している実験の結果を受けて、あり得ない量を摂取して初めて悪影響があったものでも、「コイツは危ないから、少しも摂っちゃいけない」というようなことです。

誰かが何々は危ないというと慌てふためく方々が本当に知らなくてはいけないのは、国連のFAO/WHO 合同食品添加物専門委員会によって一日許容摂取量(ADI)が設定されているということです。一日許容摂取量は“生涯、毎日、摂取した場合の数値”であって、数日間だけ100倍近くの量を摂取しても、何らかの影響が出るような値にはなっていません。

本当に危険かどうかを知りたいのであれば、どこの馬の骨ともわからない人の言葉を信じずに、そういった科学的なデータを調べる方が有意義でしょう。一日許容摂取量(ADI)のほかに、無毒性量(NOAEL)、耐容一日摂取量(TDI)といった数値も参考になるでしょう。

発癌性に関する認識の違い

食品の安全性や危険性を語る際、よく話のポイントになるものに発癌性があります。しかし、癌の原因についての考え方は、メディアによる不適切な情報発信のせいか、癌の専門家のそれとは乖離したものになっているという例があります。それが「主婦とガンの疫学者を対象に行ったガンの原因についてのアンケート」です。